小学校体育科におけるプログラミング教育
小学校体育科におけるプログラミング教育について、なにを狙いとしてどのように行われることが期待されるのか、スポーツ庁政策課教科調査官の横嶋 剛さん、高田 彬成さんにお話を伺いました。
小学校体育科におけるプログラミング教育をお聞きしました。
未来の学びコンソーシアム事務局
Q1. 体育科においてプログラミング教育はどのように扱われるのでしょうか?
体育科におけるプログラミング教育については、学習指導要領に示される体育科の内容を指導する中で実施することになります。
よって、体育科の目標や内容に示されたことが達成されることを前提とし、体育科の学習が広がったり深まったりするように、プログラミング教育を位置付ける必要があります。
体育科は運動領域と保健領域がありますが、運動領域においては、児童の運動時間を確保することや、児童が発達の段階に即した運動に取り組むことで、自己に適した課題を見付けたり、仲間と競争したり協働したりすることによって、もっと運動をしたい、できるようになりたい、勝ちたいなどの欲求を充足し、楽しくできるようにすることが大切です。
そのような学習過程において、例えば、体力向上のために、全ての児童が、楽しく、安心して運動に取り組むことができるようにすることにつながるよう、プログラミング体験を実施していくことが考えられます。
また、保健領域においては、社会の変化に伴う現代的な健康に関する課題の出現や、情報化社会の進展により様々な健康情報の入手が容易になるなど、環境が大きく変化している中で、児童が生涯にわたって正しい健康情報を選択したり、健康に関する課題を適切に解決したりすることが求められます。
その際、保健に関わる原則や概念を根拠としたり活用したりして、疾病等のリスク軽減や生活の質の向上、さらに健康を支える環境づくりを目指して、情報選択や課題解決に主体的に取り組むことができるようにすることが大切です。
そのような学習過程において、例えば、プログラムを用いて、けがの防止や病気の予防について、理解を深めることにつながるプログラム体験を実施していくことが考えられます。
Q2.体育科においてどのような単元でプログラミング教育が実践できそうでしょうか?
運動領域においては、スポーツにおいて最新のテクノロジーを導入した事例が参考になると思います。
例えば、サッカーでは、ピッチ上の選手やボールの動きをデータ化し、チームの強化に役立てています。
これを参考に、小学校第5学年及び第6学年の運動領域のボール運動では、ゴール型の場合、サッカーなどを基にした簡易化されたゲームを扱いますが、その際、児童はボールを意識して、ボールに向かっていこうとすることが考えられます。
そこで、プログラミングを用いて、全員がボールに向かう場合と作戦に基づいて位置取りをする場合を比較することで、児童が位置取りの重要性を認識できるようにするといった学習が考えられます。
保健領域においては、「けがの防止」や「病気の予防」に関して、シミュレーションするプログラムが考えられます。
具体的には、例えば、「けがの防止」においては、交通事故のデータなどを基にして、交通事故を予防するために必要な行動をシミュレーションするプログラムが考えられます。
また、「病気の予防」においては、例えば、感染症の広がりと感染経路を断つ方法をシミュレーションするプログラムにより、感染症の予防を視覚的に捉える実践などにも活用できると考えられます。
Q3. 一方で、 体育科におけるプログラミング教育について、どのような授業は適切ではないとお考えでしょうか?
運動領域においては、運動領域の目標を達成するためには、身体的活動の時間の確保が不可欠です。
そのため、プログラミング体験が多くの時間を占めて、身体的活動の時間が十分に確保されないという状況は望ましくありません。
また、怪我につながらないよう、児童の発達の段階に配慮する必要があります。
全ての児童を対象として実施する小学校のプログラミング体験においては、児童の身体の状況や技能の差などによって、必ずしもその通りに実践できるとは限らず、反対に危険を伴う恐れもあるためです。
保健領域は時間数が限られています。保健領域の授業時数は時間数も第3学年及び第4学年に配当する授業時数は2学年間で8単位時間、第5学年及び第6学では2学年で16単位時間程度と非常に限られた時間の中で多くの内容を取り扱わなければなりません。
そのため、プログラミング教育を取り入れることが目的となり、プログラミング体験で取り扱うこと以外の内容が十分に指導されないということは避けなければなりません。
また、使用するプログラムは一定程度、現実を簡素化したものとなる場合も想定されます。
健康に関する事柄については、様々な条件が関係しているため、プログラミング体験の実施にあたっては、現実とプログラムの違いを適切に指導する必要があり、児童がプログラム通りにさえすれば現実もその通りになると誤解してしまうような指導は望ましくありません。
Q4. 体育科においてプログラミング教育を行う際、どんなプログラミング環境や教材があると望ましいのでしょうか?
運動領域においては身体的活動の時間の確保が、保健領域においては多岐にわたる内容の指導が適切になされるよう、短時間で取り組める教材があると望ましいと思います。
特に、運動領域においては、身体的活動を行い、それを踏まえてプログラミング体験を行い、プログラミング体験を踏まえて身体的活動を行うということを、1回の授業で行えるよう、タブレット等で簡単に児童が取り組める教材があると、体育科においてもプログラミング体験に取り組みやすくなると考えています。
Q5. 最後に、プログラミング教育にどの様な期待をお持ちでしょうか?
子供の体力については、低下傾向に歯止めが掛かっているものの、体力水準が高かった昭和60年ごろと比較すると、依然として低い状況が見られます。
また、体育科の授業以外の1週間の総運動時間が0分の児童は、平成26年度と平成29年度との比較において、男子で2.9%から4.9%、女子は5.0%から13.6%と増加しており、運動・スポーツ離れが進行しています。
運動領域の目標「各種の運動の楽しさや喜びを味わい、その行い方を理解するとともに基本的な動きや技能を身に付けるようにする」を達成するためには、今後益々身体的活動の時間の十分な確保が不可欠であり、運動やスポーツの楽しさをじっくりと体感する必要があると考えます。
また、保健領域の目標である「生涯にわたり健康を保持増進する」をより確かなものにするためにも、プログラミング教育の導入がこれに寄与することを期待しています。

左【横嶋】栃木県公立小中学校教諭、宇都宮市教育委員会指導主事、文部科学省食育調査官、平成30年4月より現職
右【高田】川崎市公立小学校教諭、文部科学省専門職、川崎市教育委員会指導主事、平成25年4月より現職
(役職名は記事公表時のものです)